13.04.2023 by Aileen Sammler

固体電気化学サーマルトランジスタ - 大きな可能性を秘めた新しいトランジスタクラス

固体電気化学サーマルトランジスタ(SETT)は、特定の材料の電気化学的特性を利用することで熱の流れを調整できる新しいクラスのトランジスタである。熱電気化学結合の原理に従い、電気エネルギーを熱エネルギーに効率的かつ可逆的に変換することができる。

SETTは、エレクトロニクス、エネルギー変換、冷凍など多くの用途に不可欠な熱管理分野に革命をもたらす可能性を秘めているため、その重要性はますます高まっている。SETTは、従来の熱管理に代わる有望な選択肢を提供し、よりコンパクトでエネルギー効率に優れ、費用対効果の高い熱管理システムを実現する可能性がある。

固体電気化学サーマルトランジスタを世界で初めて開発

北海道大学はこのほど、電気信号によって熱の流れを制御できる画期的な固体電気化学サーマルトランジスタを開発した。

従来の液体状態のサーマル・トランジスタには、漏れがあるとデバイスが動作しなくなるという致命的な限界があった。北海道大学電子科学研究所の太田弘道教授が率いる研究チームは、酸化イットリウム安定化ジルコニウムをスイッチング材料とし、コバルト酸ストロンチウムを活物質とするサーマルトランジスタを開発した。トランジスタの制御に必要な電力を供給するために白金電極を採用した。その結果、活物質の熱伝導率はいくつかの液体状態のサーマル・トランジスタに匹敵し、デバイスは10回の使用サイクルにわたって安定で、多くの液体状態のサーマル・トランジスタよりも耐久性が高いことがわかった。

固体サーマルトランジスタは多層構造からなる。上部電極と下部電極は白金で構成され、活性層としてストロンチウムコバルト酸化物(SrCoOx)が使用されている。コバルト酸ストロンチウムの結晶構造は、空気中280℃で電気化学的に酸化・還元することにより変化する。完全に酸化されたコバルト酸ストロンチウム層(いわゆる「オン」状態)の熱伝導率は、完全に還元されたコバルト酸ストロンチウム層(いわゆる「オフ」状態)の熱伝導率に比べて4倍程度高い。(出典:Yang et.al, Adv. Funct. Mater, 2023, 2214939)
による測定NETZSCH PicoTR

サーマルトランジスタの熱伝導率を測定するために、研究チームはNETZSCH Time Domain Thermoreflectance 法PicoTR を使用した。この開発に貢献できたことを大変誇りに思います。

この画期的な技術は、エレクトロニクスの熱管理に新たな可能性をもたらし、より効率的で信頼性の高いデバイスへの道を開くものです。

詳細については、Advanced Functional Materials Journal (Advancedsciencenews.com)に掲載された以下の研究論文をダウンロードしてください: